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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)9102号 判決 1964年6月06日

主文

一、昭和三〇年(ワ)第九、一〇二号事件原告の請求を棄却する。

二、昭和三六年(ワ)第一、七四三号事件被告は、同事件原告に対し金一〇二一万円四〇四一円九六銭及びこれに対する昭和三〇年五月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  昭和三六年(ワ)第一、七四三号事件原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、昭和三〇年(ワ)第九、一〇二号事件につき生じた分は、同事件原告の負担とし、昭和三六年(ワ)第一、七四三号事件につき生じた分は、同事件被告の負担とする。

事実

(略語例)

昭和三〇年(ワ)第九、一〇二号事件を第一事件、同事件原告を原告会社、昭和三六年(ワ)第一、七四三号事件を第二事件、同事件原告兼第一事件被告を被告会社、第二事件被告を被告という。

第一  当事者の求める裁判

一  原告会社の申立

1 原告会社が別紙第一目録記載の各弁済供託金還付請求権を有することを確認する。

2 原告会社が別紙第二目録記載の各預金債権を有することを確認する。

二  被告会社の申立

(第一事件についての申立)

主文第一項、第四項前段同旨

(第二事件についての申立)

1  被告は、被告会社に対し金一二二三万四八九七円及びこれに対する昭和三〇年五月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

三 被告の申立

1  被告会社の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、被告会社の負担とする。

第二 第一事件に関する当事者の主張

一  原告会社の請求原因

1  原告会社は、訴外株式会社千葉銀行王子支店及び訴外株式会社三和銀行三河島支店に対しそれぞれ別紙第二目録記載の各預金債権を有し、訴外株式会社三菱銀行、訴外株式会社第一銀行、訴外第一信託銀行株式会社及び訴外株式会社北陸銀行に対しそれぞれ別紙第一目録記載の各供託金額相当の各預金債権を有していた。

2  原告会社は、昭和二四年一一月頃被告会社と特約店契約を結び、水アメその他菓子類等の製品を被告会社に一手に販売させる一方、被告会社から澱粉その他の原材料を買い入れる取引を継続して来たものであるが、訴外川部福太郎は、昭和三〇年四月二八日原告会社の代表取締役名義を使用して右1の各預金債権を被告会社に譲渡する旨の契約を締結した。

3  右債権譲渡は、つぎに述べる理由によつて無効である。

(一)  訴外川部福太郎は、その当時原告会社を代表する権限を有しなかつた。

すなわち、川部福太郎は、もと原告会社の代表取締役であり、その旨登記もされていたが、原告会社は、昭和三〇年一月五日取締役熱田〓ゑ同青木文雄同川部福太郎同岸田恵太郎出席の上開催された取締役会において川部福太郎の代表取締役を解任する旨の決議をし、同月一三日その旨の登記を了した。

(二)  かりに右主張が理由がないとしても、右債権譲渡契約は川部福太郎が被告会社と通謀してなした虚偽の意思表示にもとずくもので無効である。

すなわち、川部福太郎は当時被告会社と提携して事業を遂行しようと考えたが、それには代表取締役熱田〓ゑの存在が邪魔なので原告会社の一切の財産を形式上被告会社名義としこれにより事実上同人から原告会社の業務執行権を剥奪する手段として被告会社と通謀し、共同して原告会社の印鑑を虚偽して右債権譲渡契約をしたように仮装したものであつて、契約当事者双方に真実債権を移転する意思はなかつたもので、虚偽の意思表示による契約として無効である。

(三)  かりに、右主張が理由ないとしても原告会社が有していた前記各預金債権は、いずれもその預金約款において譲渡が禁止されており、被告会社はその譲渡禁止約定のあることを知りながら右各預金債権を譲り受けたものであるからその譲受けは無効である。

4  以上のとおり前記債権譲渡契約は無効であつて、原告会社は、いぜん前記各預金債権を有しているところ、株式会社三菱銀行、株式会社第一銀行、第一信託銀行株式会社及び株式会社北陸銀行は右債権譲渡の効力につき紛争があつたため、別紙第一目録記載のとおりそれぞれ各預金を弁済のため供託した。

よつて、原告会社が別紙第一目録記載の各弁済供託金還付請求権、別紙第二目録記載の各預金債権を有することの確認を求める。

二 被告会社の答弁

請求原因1および2の事実は認める。同3の(一)のうち川部福太郎が原告会社の代表取締役であつたところ、原告主張の昭和三〇年一月五日取締役熱田〓ゑ、同青木文雄、同川部福太郎および同岸田恵太郎出席の取締役会において、その代表取締役たることを解任する決議のあつたこと、原告主張の日その旨の登記のなされたことは認めるが、岸田恵太郎が取締役であつたことは否認し、その解任決議の効力も争う。同3の(二)および(三)の事実は否認する。同4のうち原告主張の各銀行がそれぞれその主張のとおりの供託をしたことは認める。

三 被告会社の主張

1  原告会社主張の昭和三〇年一月五日の取締役会における川部福太郎の代表取締役を解任する決議は、つぎの理由によつて無効であり、したがつて、原告会社主張の債権譲渡当時川部福太郎は、原告会社の代表取締役として権限を有していたものである。

(一)  昭和三〇年一月五日の取締役会議事録によれば、右解任決議の賛成者は代表取締役熱田〓ゑ、取締役岸田恵太郎その反対者は代表取締役川部福太郎、取締役青木文雄と記載されている。

ところが、右岸田恵太郎は、すでに昭和二七年六月原告会社の取締役を辞任し、退職金をも受領していたのであつて、昭和三〇年一月五日当時取締役ではなかつたから、右議決に加わることができなかつたはずである。したがつて、同人の議決権の行使は、無効というべきであり、この議決権行使を除外すれば、二対一で右解任決議案は否決されたものといわなければならない。

(二)  かりに、岸田恵太郎が、昭和三〇年一月五日当時原告会社の取締役であつたとしても、同人は昭和二九年八月二五日取締役の職務執行停止の仮処分によつてその職務が停止され、昭和三〇年一月五日当時もその停止中であつて、取締役会における議決権を行使し得なかつたものであるから、右と同様その解任決議案は否決されたものである。

(三)  かりに、岸田恵太郎の議決権行使が有効であつたとしても、反対の議決権行使をした川部福太郎のそれは有効であるから、決議は二対二として解任決議案は可決されたものということはできない。すなわち、代表取締役の選任または解任決議において、当該取締役または代表取締役は、その決議について特別利害関係を有するものとはいえないから、商法第二六〇条ノ二の規定の適用はないからである。

2  かりに右被告会社の主張が容れられないとしても、原告会社は、右解任後の昭和三〇年二月一九日の取締役会において、川部福太郎を再び原告会社の代表取締役に選任する旨の決議をなしたものであるから、この点からみても本件債権譲渡当時川部は原告会社を代表する権限を有していたもので、本件譲渡は有効というべきである。

3  かりに、右昭和三〇年二月一九日の川部福太郎を代表取締役に選任する旨の決議が無効であり、本件債権譲渡当時川部に原告会社を代表する権限がなかつたとしても、原告会社は、右選任決議にもとずいて同年四月二八日川部の代表取締役就任の登記をなしたものであり、右登記は原告会社が故意または過失によつて不実の登記をした場合にあたり、しかも被告会社は右登記を信頼して川部との間において本件債権譲受契約をしたものであるから、原告会社は被告会社に対して川部に代表権限のなかつたことを主張し得ず、したがつてこれを理由に本件債権譲渡行為の無効を主張できない。

四 被告会社の主張に対する原告会社の答弁

1  被告会社主張の右三の1の川部に対する解任決議無効の主張は準備手続調書又はこれに代る準備書面に記載されなかつた事項であり、著しく訴訟を遅滞させるものであるから却下を免れない。かりにそうでないとしてもその主張事実は否認する。まして当の川部福太郎自身その解任決議の効力を争つていないのであるから、第三者である被告会社がその無効を主張することはできない。

2  被告会社の右三の2の主張事実中その主張の日その主張の川部福太郎を原告会社の代表取締役に選任する旨の決議がなされたことはこれを認めるが、右選任決議は次の理由によつて無効であるから、この点の被告会社の主張も失当である。

(一)  原告会社の定款第二六条によれば、「取締役会は、取締役会長が招集する。取締役会長事故あるときは社長が招集する。」と定められているところ、右招集のなされた昭和三〇年二月一九日当時原告会社においては取締役会長は定められておらず、代表取締役熱田〓ゑが社長と定められていたから、右定款の規定により同人のみが取締役会招集の権限を有し、他の取締役はこの権限を有していなかつた。

したがつて、前記取締役会は招集権限のない川部福太郎が招集したものであつて、その決議は無効である。

(二)  かりに、川部福太郎に取締役会招集の権限があつたとしても、前記取締役会開催につき代表取締役熱田〓ゑに対する招集通知はなく同人欠席のまゝなされた前記決議は無効である。

(三)  右取締役会に出席して議決に参加した岸田恵太郎は、昭和三〇年一月二九日原告会社の代表取締役兼社長たる熱田〓ゑに対し取締役を辞任する旨の意思表示をし、これにより同日限り取締役としての権限を失つているにもかかわらず、前記取締役会に出席して議決に参加しているから、この点においても右議決は無効である。

(四)  さらに、右議決は川部福太郎を代表取締役に選任する件につきなされたものであるから、川部福太郎は、右議決につき特別の利害関係を有する者として議決権の行使ができないにもかかわらず、議決に関与しているから前記決議は無効である。

3  被告会社の主張3に対して被告会社主張のとおりその主張の選任決議にもとずきその主張の登記のなされたことはこれを認めるが、被告会社は、昭和二六年頃から同社々員を原告会社に派遣してその業務管理をしていたので原告会社の内情に通じ、原告会社の実権が熱田〓ゑにあり、川部福太郎が解任され、しかもその後の選任決議が前記2の(一)ないし(四)のとおり無効であり同人に代表権がないことを了知していたはずで、しかも川部福太郎が代表取締役に就任した旨の前記登記手続には、被告会社も関与しているから、被告会社は商法第一四条の善意の第三者には該当しないものである。

第三 第二事件に関する当事者双方の主張

一  被告会社の請求原因

1  原告会社は、被告に対しいずれも利息弁済期の定めなく

(一)  昭和二三年八月一九日金八万〇一六三円九六銭

(二)  昭和二四年三月三一日金九六九万四一九二円

(三)  昭和二五年二月一五日金四三万九六八六円

(四)  昭和二九年四月から同年九月三〇日までの間に合計金二二四万五八五五円〇四銭

を各貸付けた。

2  被告会社は、昭和三〇年四月三〇日原告会社から右(一)乃至(三)の合計金一〇二一万四〇四一円九六銭の貸付金債権と右(四)のうち金二〇二万〇八五五円〇四銭の貸付金債権、以上合計金一二二三万四八九七円の債権の譲渡を受け、原告会社は、被告に対し同年五月一日その旨の譲渡通知をした。

3  そこで、被告会社は、昭和三〇年五月三日被告に対し右各金員を一〇日間以内に支払うよう催告した。

4  よつて、被告会社は、被告に対し右各金員及びこれに対する催告期限の翌日である昭和三〇年五月一四日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 被告の答弁

請求原因1のうち被告会社主張の約旨で(一)乃至(三)の合計金一〇二一万四〇四一円九六銭の金員の貸付を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同2のうち被告会社主張の譲渡通知のあつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同3の催告のあつたことは認める。

三 被告の抗弁

被告会社主張の債権譲渡は、無効である。

その主張は、第一事件に関する原告会社の請求原因3の(一)に記載のとおりである。

四 被告会社の答弁及び主張

第一事件に関する原告会社の請求原因3の(一)に対する被告会社の答弁及び主張1、2、3のとおりである。

五 再抗弁に対する被告の答弁

第一事件の被告会社の主張に対する原告会社の答弁のとおりである。

第四 第一事件に関する証拠関係(省略)

第五 第二事件に関する証拠関係(省略)

別紙

第一目録

(一) 供託者      株式会社三菱銀行

供託した日    昭和三十年八月八日

供託場所     東京法務局北出張所

供託番号     昭和三十年金第一二三〇号

供託金額     金千百六十四万五千百九円

(二) 供託者      株式会社第一銀行

供託した日    昭和三十年五月十日

供託場所     東京法務局

供託番号     昭和三十年金第六一三五号

供託金額     金千二百十九万八千九十六円

(三) 供託者      第一信託銀行株式会社

供託した日    昭和三十年十二月六日

供託場所     東京法務局台東出張所

供託番号     昭和三十年金第二五六三号

供託金額     金二百四十七万六千五百十一円

(四) 供託者      株式会社北陸銀行

供託した日    昭和三十年十二月十四日

供託場所     東京法務局

供託番号     昭和三十年金三一〇七一号

供託金額     金五百四十四万六千三百七十八円

第二目録

(一) 原告が株式会社千葉銀行王子支店に預金した預金債権

(1) 当座預金債権    金三十四万千百二十二円

(2) 普通預金債権    金八千三百三十九円

(3) 定期預金債権    金百六十三万三千円

(4) 定期積立預金債権  金百八万円

(二) 原告が株式会社三和銀行三河島支店に預金した預金債権

(1) 当座預金債権    金三万二千二百七十三円

(2) 普通預金債権    金十一万七千二百円

(3) 定期預金債権    金五十万円

(4) 定期預金債権    金二十万円

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